「 元気にしています!」
トーメイダイヤ株式会社
専務取締役・技術責任者
安藤 豊 さん

CO2 還元用ダイヤモンド電極実証研究拠点での筆者
トーメイダイヤ株式会社は工業用ダイヤモンド砥粒等の製造から販売までを行っている、国内唯一と言ってもよい企業ですが、「ダイヤモンドを作っています」と言うと、以前は何か怪しい商売をしているかのように勘違いされてしまうようなこともありました。しかも、メインの製品はサイズの小さいダイヤモンドの“白い粉“だったりしますので、余計に何だかわからないことになりがちです。
ただ近年になって、人工(だけど模造でなく本物)の宝飾用ダイヤモンドが市場に出回るようになってきたこともあり、少しは人工ダイヤの知名度も上がってきているのかなと感じます。工業用のダイヤモンドも、少なくとも世の中で通常手に入るレベルの材料としては最も硬いからこそ使われている製品ですので、模造では意味が無く、間違いなく本物のダイヤであることが必須となります。ダイヤモンド砥粒の多くは、他の材料では加工が難しい材料を切ったり、削ったり、磨いたりといった用途で使われ、産業のコメと言われるくらい世の中に欠かせなくなっている半導体の多くは、ダイヤモンドで加工されています。もし、ダイヤモンド砥粒の供給が途絶えると、その先の半導体の加工が滞ることになるので、その影響の大きさを考えると製造業として身が引き締まる思いです。
図1は弊社のカタログ等でも長年使用している「ダイヤモンドの樹」で、ダイヤモンドの優れた物性と期待される応用などの情報をまとめたものです。旧い情報も含まれるのはご容赦いただきたいですが、ダイヤモンドはとにかく物質中最高、あるいは最高レベルのユニークな性質を多く有しています。私はしばしばこれらを才能のある子どもに例えますが、これだけ多くの才能をもちながら、実際にビジネスとして成り立っている応用範囲はまだまだ限られています。弊社のダイヤモンドパウダーのほとんどは砥粒としてのダイヤモンドであり、ダイヤモンドの数多くの優れた物性のうちの機械的特性くらいしか使えていません。トーメイダイヤという、社名にダイヤモンドを冠している会社としては、ダイヤモンドのことなら何でもできますというところまで行きたいというのが、技術責任者でもある私の思いです。
熱伝導特性に優れているというのも非常にわかりやすい特徴です。半導体の加工ではなく半導体そのものとしてダイヤモンドが候補に挙がる理由のうちの一つでもあります。金属の中で最も熱伝導性の高い銀やそれに次ぐ銅の熱伝導率はおよそ420~390W/(m・K) 程度ですが、ダイヤモンドは欠陥が少なければ2,000W/(m/K)を越える圧倒的な物性を示します。必然的に世の中の開発者としては、これを活かしたいと思うのですが、そう簡単な話ではありません。ダイヤモンドはその特異な物性ゆえにその他の材料との相性が悪い場合が多いです。弊社にも古くから熱伝導材としてのダイヤパウダーの問い合わせが多かったですが、バインダーとなる他材料との相性の悪さ等から、結果上手くいかず、弊社のダイヤモンドの熱伝導率が実は低いのではと疑われることも多かったです。確かに弊社のダイヤモンドは工業用として一定量の窒素の不純物が含まれますので2,000W/(m・K)はありませんが、品種にもよりますが概ね1,000W/(m・K)前後はあるはずのモノです(品質の良い工業用砥粒なら1,200 W/(m・K)を越える)。そのダイヤを使ったがアルミナパウダー(熱伝導率20〜35 W/(m・K)程度)よりも性能が落ちたとの問い合わせが何度かありました。
しかしながら、近年になって周辺の技術ノウハウが育ちようやくその扱い難さを克服することができるケースも出てきました。今では実際に弊社のダイヤモンドパウダーが熱伝導材の一つとして製品化されるまでに至っています。
ダイヤモンドは1955年に米国のゼネラルエレクトリック(GE)社が高温高圧合成装置を使って、地面の底でダイヤモンドが成長するのと同じ環境を作り上げることで、人工的に製造できるようになりました。日本でもそれに追随する形で1961年にトーメイダイヤの前身である石塚研究所(IRI)においてダイヤモンドの合成に成功しています(図2)。

図2 トーメイダイヤ製高温高圧装置
この技術が弊社をここまで育ててきたわけですが、1980年代になると、高圧環境下ではなく炭素を含んだガスを原料としてダイヤモンドを合成する方法(化学気相合成法によるダイヤモンド合成)が発表されました。高温高圧により得られるダイヤは、粒状あるいはこれを丁寧に大きく成長させた大粒あるいはそこからカットした板等で、ダイヤの合成に必要な超高圧(少なくとも5GPa以上)が一定時間維持できる必要があり、圧力は荷重÷断面積で決まるためどうしてもサイズに制約が出てきます。ところが、ガスを原料として基材上に成長できる気相合成は大気圧より低い条件での結晶成長であり、高圧法のような制限がないので、一気に応用範囲が広がるのでは?と当時かなり期待をされました。しかしながら、成長条件がかなり特殊であり、耐えられる基材の種類が少ないことなどから思ったほどは普及せず、またダイヤモンドの難しさみたいなところにぶつかって、研究としても一時はやや下火になっている時期もありました。
しかしながら、現在では宝飾用ダイヤモンドの製造法としても、気相合成が高温高圧合成と双璧を成すレベルくらいにまで成長し、そしてトーメイダイヤでも化学電極としての気相合成ダイヤモンドを量販するまでに至っています。難しいと思っていることでもあきらめずに努力工夫を続けていれば何とかなるモノだなとつくづく思います。最近ではさらに量子素子としてのダイヤモンドが注目を浴び、再び研究業界が再び活気付いています。
弊社の化学電極としてのダイヤモンドは、ホウ素をやや過剰にドープしたダイヤモンド(BDD:Boron dope diamond)で導電性が金属に近いくらいになります。BDDは化学電極、センサーなどとして様々な用途が開拓されていますが、弊社が量産しているのはオゾン(機能)水生成用のBDD電極です(図3)。

図3 ボロンドープダイヤモンド化学電極の例
乾電池レベルの電圧で比較的簡単な構造で水道水でもオゾン水に変換できるのでとても便利なものです。オゾン水には、次亜塩素酸水のような殺菌消毒効果がありながら、一定時間経つと酸素になってしまうため、除菌した後の残差物を除去する必要がないのもメリットです。水をきれいにしたいという需要自体は世界中にあるので、とても期待される分野です。今はさらに世の中に広く普及されるための新しい課題克服に取り組んでおり、これもまた簡単な話ではないですが、何とかなりそうな気もしています。
リーマンショックを経験して一度研究を離れざるを得ない時期がありましたが、その間に品質保証部長や事業部長、工場長を経験したことが、遠回りとはいえ結果的には大手メーカーからの量販品受注獲得のために役立ったのかなと今は思えます。ようやくはじめの一歩が踏み出せたかなという感覚で、ダイヤモンドの良いところはまだまだたくさんあるので、今後増々、才能のある子を育てて世の中に羽ばたかせていけたらなとそんな思いで日々過ごしています。
(了)

図1 ダイヤモンドの特性と有望用途